「スーパーサイズ・ミー:ホーリーチキン !」の感想

昨日のプライムデーでPrime会員になったので、プライムビデオの感想を残していこうと思います。

※個人の感想なのでネタバレも含む可能性があります

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スーパーサイズ・ミーの一作目も同じくプライムビデオで配信されていましたが、今作も楽しめました。

一作目は自分の身体を使ってファストフードのみで生活したらどうなるのか、今作は実際に飲食フランチャイズのオーナーとして企画、調査、ブロイラーの生産から実際の店舗を改修してビジネスを開始したところまでを描いています。

最初は特に何も考えずに見はじめたのですが、前作で全面に打ち出した健康に関した理想のフランチャイズを始めるのが目的ではなく、本作も一作目とはまた違った方法で外食業界の問題提起を行っているのがこの作品の本質だと気づいてから一気に面白く感じました。

注意深く見ていれば「問題を理解するには、その一部になればいい」というようなセリフが早い段階であったので、最初からそのつもりだったのでしょうけれども、その意味するところがしっかりと中盤あたりで出てくるところに感心しました。

一作目は有名な分、レビューを見るとファストフード寄りの批判的な意見も多く感じました。ですが、ファストフード業界は健康的な方向に大きく舵を切りました。映画の影響もあったでしょう。ただし、本作で触れられているように変わったのは見た目だけというオチもありましたが、それだけ人々は健康を強く意識しているということでしょう。

私もファストフード、というよりは昔からハンバーガーチェーンが大好きです。かつてはアメリカに旅行したことがあって、日本に進出していないようなチェーン店巡りもしました。私は健康志向を打ち出されるよりも、魅力的なハンバーガーをたくさん食べたいと思っていました。

今作はファストフードのチェーンを創出するわけだから、ファストフードを一方的に批判するような内容よりも受け入れやすかったです。むしろ今作ではファーストフードの経営者寄りな内容になるのかと思いましたが、そうではありませんでしたね。

www.holychickenusa.com

実際にホーリーチキンという店舗はこの手の映画の撮影のためだけに作られた壮大なジョークではなく、2020年10月時点では既に3店舗あり、公式サイトを見ると徐々に拡大しつつあることも見て取れます。

ウェブサイトに関してはファストフードのウェブサイトにしてはメニューがないのが痛いところですが、実際に足を運んでみたいと思わせるには十分な気がします。

それこそ作中でも活動家などと揶揄されていましたが、Holy Cow!ならぬHoly Chicken!のビジネスを開始するにあたってドラマや映画の小道具でもなく、本気でチェーンを展開していくんだという強い意志を感じました。もし使い捨ての企業だったら、自分の主張だけでビジネスをするなら作中にあったように胸肉のグリルバーガーや緑色の野菜バーガーだけでも良かったはずです。

その上でちゃんとアドバイザーの意見を汲み取ってブランドストーリーもあるし、顧客に対して誠実という意味ではこれまでにはないチェーンであることには違いありません。たまたま去年あたりにチキンバーガーが流行っているというニュースもあってタイムリーだし、ちゃんと業界の闇に切り込みつつ、わかりやすい巨悪に挑むという点では応援したくなるような心理も働くのでうまく出来すぎてると思うところもありますが、やっぱりこの監督相当に賢いんだと思います。

ちょっとした小ネタとしては、商品開発を訪れたときにダイコンパンコの日本語が聞こえてきました。さすがにチキンカツという単語までは聞き取れませんでしたが、カツレツはもともとフランス語らしいです。

作中で印象に残ったシーンとしてはヒヨコのヒナを農場に雑に放り投げたり、オスメスの選別を投げて行うあたりは同じアメリカ人でも驚くかもしれませんが、なんとなくアメリカ人っぽいなぁと思うところでもありました。あとはワクチンを打たれているときのヒヨコが当然ながら痛がっているリアクションのシーンでは逆に可愛いなんて思ってしまいましたけれども。やっぱり刺さったら痛いですよって言われるところはなんとも言えません。

あとはヒヨコのヒナがあれだけいたらきっと踏み潰しちゃうだろうなぁと思ってた矢先に本当に踏み潰しちゃったり。屠殺のシーンこそありませんでしたが、病死したり、死んだニワトリを解剖するシーンがあったり、グロテスクなものが苦手な身としては辛いシーンでした。家畜だからとはいえ、フォアグラだけではなく普段口にするニワトリも健康上の問題を抱えながら生かされているわけですね。「ニワトリが死んでしまうのは順調な証拠」というのもなんだか複雑な気持ちにはさせられますね。

手塩にかけて育てたニワトリを出荷するシーンもなかなかお目にかかれるものではないと思います。少なからず自分でそんなシーンを見ようとは思わないでしょう。大掛かりな機械を搬入したと思いきや、一羽ずつ狭いケージに詰め込んでいくところは機械化しきれない部分なのでしょう。それこそ挿絵にあったように、バキュームで吸い込んでいったり、ダンプカーですくい上げて押し込んでいくもののように感じましたが、さすがにまだそこまで雑には扱えないんでしょうね。

あとは何よりこの映画の主要なテーマかもしれませんが、養鶏家たちの闇を描ききったという意味でもやっぱりドキュメンタリー映画としての価値はあると思います。それこそ今回のニワトリの飼育に携わった家族以外にも途中にインタビューで顔出しで出た人たちは案の定エンディングの時点で報われていないのが気がかりですが、当たり前のように食べられると思った食事が生産者がいなくなってもう食べられなくなるかもしれない。不公平なコンペティション方式だけはこの映画を通して何かしら改善する必要はあると思います。それが実態だけは異なる改善なのかもしれませんけれども。

もちろんビジネスや、資本主義で利益を追求することが必ずしも悪いこととも思えません。やはり彼らも仕事でそうせざるを得ないことも理解できます。私もお腹が空いたとき、ふと家の近くのファストフードを利用することも少なからずあります。他のお店は新型コロナウイルスの影響がある中でも、例えばマクドナルドはずっと営業をしていました。コンビニが24時間開いているように、頭の中での理想と現実では楽をしたいという葛藤が常にあるというか。今回はその心理をうまく利用されているなどいろいろと考えさせられる内容であることには違いありません。

理想と現実については特に飲食業をフォーカスしているものの、自分の今の仕事でも似たような側面はあって、どの業界でも競争を強いられて、それに敗れたものには借金であったり、健康であったり何かしらのペナルティを負わされてしまうのは悲しいことだなと思います。Holy Chicken!でも他社と比べて雇用なども人道的なアピールがなされていましたが、いずれはアルバイト達が使い捨ての駒になっていくのかもしれません。いわゆる闇堕ちですが、そうならないように見守りたいという気持ちもあるし、あれだけ映画内で他社をこき下ろした以上はそうはなってほしくないと思うばかりです。

まとめとして、今後感想をつけていく一作目にふさわしい作品でした。ドキュメンタリーなので人は選ぶかもしれませんが、プライム会員なら一度は見ておきたい作品ですね。次回以降もこの熱量で書けるかはわかりませんが、それくらい今回は面白い作品だったといえます。